≪循環型社会の優等生「鉄スクラップ」の業績評価は難しい?≫ (2009.8.19)
第9回は、経営支援事業部 原田 昇による
『「鉄スクラップ」の業績評価』についてお届けします。
資源の乏しい日本では、生活から発生する廃棄物のほとんどは何らかの形で再利用されていました。
歴史上、奈良・平安時代の
再生紙から始まり、古着・屑繊維その他の回収や再生が、きちんとした
商売として成り立っていたのは江戸時代からと言われています。
鉄リサイクルの歴史も古く、明治時代から行われています。
古くなり錆びついた鉄でも何度も再生可能で、リサイクルの優等生と言われる所以です。
現在では全鉄製品の30%がリサイクルによるものであり、もし、リサイクルが行われていなければ、
最終処分場はすでに一杯で、街は廃棄物の山になっているはずです。
「資源リサイクル・省エネ・環境保全」への関心の高まりと共に業界全体は伸びてきていますが、依然
需要は好・不景気、外国の生産状況、外国為替レートに敏感に反応し、売買相場が大きく変動します。
売り先は特定業者に決まっている事から、大切なのは「仕入先の確保とストック(在庫)量」であり、
回収品(仕入品)が高く売れる時に売るためにストックしたい「在庫の山を見ると安心する」傾向が業界の特徴と言えるかもしれません。
昨年秋以降の相場価格の下落から、採用する棚卸資産の評価方法により、会社の決算業績を
正確に表現出来ない状況も生じています。
そこで中小企業における在庫(棚卸資産)の評価方法で主に採用されている最終仕入原価法について今回は考えてみようと思います。
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<最終仕入原価法>
最終仕入原価法は、棚卸資産を期末に最も近い時において取得した1単位当たりの取得価額をもって評価する方法です。
実務上、計算が容易であることや、税法上他の方法を選択して届け出ていない場合の法定評価方法となっていることから、中小企業において多く採用されています。
相場下落状況下においては、1年前に単価1,500円で調達した資材も、期末直前に調達した
単価1,200円の資材とともに1,200円で評価することになり、1年前に調達した資材から
300円実質評価損を計上することになります。
また、最終仕入原価法には、税法上、最終仕入原価法による原価法と、最終仕入原価法による
原価法に基づく低価法があります。
前者は上記具体例と同様ですが、後者は期末直前に調達した1,200円と期末の時価1,000円とを比較した場合に、期末時価が低い場合には、1年前に単価1,500円で調達した資材を1,000円の評価額とする方法です。
業績が好調で取引価格や時価の上下が日常的に存在する棚卸資産には、評価減のメリットが
あります。
その反面、業績不振時には評価減という更なる重荷を背負ってしまう事になります。
前述したように回収品(仕入品)が高く売れる時に売るためにストックしたいという「在庫の山を見ると
安心する」業界なのでそのストック量は多く、単価の違いで損益に大きな違いが生じてしまうのです。
税法上の棚卸資産の評価方法には、個別法・先入先出法・後入先出法・総平均法・移動平均法・単純平均法・最終仕入原価法・売価還元法
の8つのそれぞれに原価法と低価法が認められており、厳密には16通りの評価方法があります。
(変更には、適用しようとする事業年度開始の前日までに変更の届出が必要です)
それぞれにメリット・デメリットはありますが、現在の外部環境や自社の管理体制で著しく不合理な評価方法になっていないか、届出している方法と実際の方法にギャップがないか、今一度確認しみることが必要です。
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税理士法人 西川会計では、
「関与先の黒字化支援」の一環から「利益計画と予算実績検討」に力を入れています。
相場が大きく
変動し易い「再生資源回収業」は売上と原価の予測も当然難しく、担当者泣かせでもあります。
在庫(棚卸)の評価で業績が大きく変わる可能性が高い業界だからこそ、適正な評価方法を
検討して、損益が大きく変わってしまう要素を排除して損益予測をしましょう。
(経営支援事業部 原田 昇)
(次号予告:税務監査事業部 上原 一江子による『理美容業の税務調査』)